「海を知る」「地球を知る」ブログ

海と地球の科学技術コンサルタント

2024.08.19

海洋ロボットを活用した地域社会の課題解決のための取り組み(その3)

水中ドローンによるウニ採取技術の開発

 令和5年度(2023年度)の「水産資源事業開発タスクフォース」では、3番目の柱として「水中ドローンによるウニ採取技術の開発」の取り組みを進めてきました。
なぜ、水中ドローンでウニを採取するのかと不思議に思われる方もいるかもしれません。現在行われている磯焼け対策や藻場回復のためのウニ駆除方法は、浅瀬については、ボランティアの方々を含む漁業やマリンレジャーの関係者が、人海戦術で採取しています。具体的には、例えば大潮の干潮の時間帯を狙って、カギ付き棒という道具を用いて浅瀬の岩場に生息するウニを引きはがすように採取しています。イベントとして多くのボランティアを集めて実施する方法は、海に親しんでもらうことや楽しんでもらうことにもつながり、ウニの駆除も捗り、効率的なやり方ですよね。

三浦半島のある海岸でのウニ駆除のイベントの様子

 一方、水深のある場所では潜水する必要があるので、漁業者やダイビングショップのダイバーの方々が中心となって、水中でウニを潰すことやカギ付き棒等で採取・駆除しています。やはり中心は人の手によるものとなっていますが、ボランティアを多く導入することは難しく、潜水による駆除範囲、活動時間、潜水深度、その頻度が制限となり、広い範囲をカバーするのは限界があり困難です。また、潜水作業は危険な面もあり、注意が必要なこと、近年担い手不足や高齢化が進むことから、より安全で継続的かつ効率的な方法が今後求められると想像しています。

 磯焼けが見られる地域のどのような場所にウニが生息しているのかについては、本ブログで今後掲載予定の「自律型無人ボート(ASV)の開発」の記事に譲りまして、ウニの採取については、当社では海洋ロボット、特に水中ドローンを活用することで、省力化と安全面の向上に寄与出来ないかと考えています。
「水産資源事業開発タスクフォース」の担当者間で最初に考えたのは、スラープガン(Slurp Gun:吸引式深海生物採集器)とキャニスター(canister:保存容器)を用いて、ウニを吸引・採取する方法です。スラープガンは大型のROV(深海無人探査機)や有人深海調査船などで、生物や岩石などを海水と共に吸引し、キャニスターに保管する装置として使用されてきたものです。当社が長年携わってきた海洋地球科学研究の調査での知見を活かし、水中ドローンに自作で搭載することとしました。スラープガンのホース選定やキャニスターの形状、吸引用のスラスターの増設など水中ドローンに取付けるための検討を進めました。

プロトタイプのスラープガンとキャニスターを取り付けた水中ドローン

 2023年度中に複数回の採取試験を行い、その都度改良を加えて、スラープガン方式の技術開発については一応の目途が付きました。最終的な採取試験では、岩礁の上に生息するウニを1時間で30個体採取するまでになりました。しかしながら、ダイバーが潜水で駆除・採取する際の時間当たりの量から比べると非常に少ない量ですので、スラープガンとキャニスターを装備した水中ドローンの操作性や採取スピードの向上は今後も課題です。また、採取試験をしている海域では、岩陰や窪み、岩に穴を掘って潜むウニも多く、スラープガンでの吸引では採取することができないため、このようなウニに対する採取方法の課題も残りました。

スラープガンでウニを吸引する様子

海底の窪みや穴に生息するウニの様子(当社ASVで撮影)

 2024年度については、岩穴に生息するウニや別の種類のウニを採取する技術開発を進めており、今後、開発の進捗具合によって当ブログで紹介できればと考えております。