「海を知る」「地球を知る」ブログ

海と地球の科学技術コンサルタント

2024.07.17

海洋ロボットを活用した地域社会の課題解決のための取り組み(その2)

ムラサキウニの陸上畜養方法の検討・実験を始めました!!

 当社は本社のある神奈川県横須賀市沿岸でも大きな問題となっている磯焼けに対して、藻場再生に取り組む長井町漁業協同組合と協力して水中ドローン等を使った藻場観察の活動を続けています。当社は海洋調査会社ではあるのですが、組合が駆除したムラサキウニを、将来的には販売を目標として畜養する検討を2023年5月から開始しました。

神奈川県横須賀市長井町漁業協同組合周辺地域(左図)、神奈川県(右図)

 海藻を食べるウニは磯焼けの原因の1つとして考えられており、磯焼けした海底に棲むウニは餌がほとんどないためか、実入りが悪くそのままでは食用にはなりません。

海藻類の少ない岩場に隠れ棲むウニ:当社ASVで撮影(長井町漁協近辺の沿岸)

 本ブログをご覧になっている方で、廃棄予定の野菜を餌としてウニに与えて畜養するという取り組みをご存じの方もいるかもしれません。現在、日本全国の沿岸域でウニの畜養が行われています。多くはカゴに入れたウニを海面近くの海中に吊下げる垂下式、または沿岸域で海水を汲み上げ、養殖施設に海水を供給してウニを畜養する方法などがほとんどです。中にはウニを完全養殖している地域もあるそうです。
餌については、その地域ごとに独自性を出すため工夫がされており、本来ウニが餌としているコンブなどの海藻類、キャベツなどの葉物から地域で名産の柑橘類など様々です。与えた餌によって、食味や色が変わるので、より美味しく育てるためにどのような餌をどの時期に与えるか試行錯誤の連続のようです。

60cm水槽内でのウニの畜養実験:餌はキャベツ

 当社では、餌の残りや糞を海洋に排出しないよう、実験用の小型水槽として社屋内に閉鎖式循環水槽を製作し、ウニの畜養実験を進めています。駆除するウニの中で畜養用に殻長が4㎝程度のムラサキウニを長井町漁業協同組合からご提供頂き、畜養期間は3カ月を目安としています。
餌については、横須賀市より横須賀市域の複数農家をご紹介して頂きました。中には、三崎マグロの加工で発生する残渣を肥料にして野菜を育てている農家さんがおり、その野菜でウニを育てることでさらなる海と畑の循環を生み出すことができるそんな出会いもありました。当社の取り組みに賛同いただいた複数の農家の皆様に季節ごとの野菜をご提供頂き、ウニの実入りや食味にどのような違いや影響があるか実験しています。

横須賀市域の農家さんより季節ごとに生産されている様々な野菜での給餌実験

 直近の畜養実験では、畜養開始からキャベツを餌としたグループとブロッコリーの葉を餌としたグループに分け、3カ月畜養しました。その結果、元々身のほとんどないウニなのですが、オレンジ色や黄色を呈する可食部の身入りが良くなり、社内では食用として出荷できる状態まで畜養できたとの感触でした。
当社SNSで紹介しております運命の試食会です。2024年5月30日に畜養したムラサキウニをご協力いただいた農家さん、飲食店経営者など横須賀市域の方々にご試食いただく機会を設けました。ご試食に提供したものは、キャベツを餌としたグループとブロッコリーの葉を餌としたグループのウニ2種類で、それぞれ見た目、食味などをご評価いただきました。当社社長を含め、ウニ畜養担当の社員が供食させていただきましたが、初めての外部評価ということで、とても緊張していたとのことでした。試食後にアンケートでお答えいただいた参加者の生のコメントを転載させていただきます。

試食会で提供するウニの準備をする緊張気味な当社社員

真剣な眼差しで畜養ウニを評価する試食会参加者の皆様

 「ブロッコリーの方が身のしまりが良いので使いやすいとは思いますが、キャベツの方がより甘み旨味を感じます。ですが、どちらも美味しいです。」
「ウニ特有と思っているこってり感(クリーミー感)は薄い。ウニが好きな人には物足りないかも。私はウニはそんなに好きではないので、さっぱりウニ(試食のもの)の方が食べやすくて好き。ブロッコリーの方が身がしっかり、口の中で粒感を感じる。キャベツはとろっと感があり口の中で溶ける感じがする。」
「クセが少ないので、料理とかと合わせたら良い気がします。」

試食会で提供したムラサキウニ

 全体的には好印象なコメントを頂けました。コメントの中には販売しているウニとも遜色ない味なので販売しているならば購入したいとの声もありました。頂いた貴重なコメントを参考にしながら、今後は、畜養数や実入りを現在よりも増やすための検討を進めています。ムラサキウニの畜養方法を検討・実験する上でこれまでご協力いただいた皆様にはこの場を借りて感謝申し上げます。誠にありがとうございました。引き続き地域の皆様のご期待に沿えるよう本取り組みを進め、環境に配慮した循環の社会実装を目指してまいります。